何故氷に塩を加えると温度が-15〜-20℃にまで下がるのか(寒剤の仕組みの例)

実際にはマイナス21.3℃まで下がるそうだ。よく教科書なんかには”アイスキャンデーを作ってみよう”コーナーで紹介されている*1。しかしその肝心の原理については、完全にはぐらかされているのだ。その解説を書いた本を探した記憶があるのだが一向に見つからなかった。今回偶然に見つけたときは本当に感動した。
そのメカニズムは、凝固点降下による食塩水の不凍化と状態変化・化学平衡で比較的簡単に説明できる。勿論凝固点降下のみで説明しようとしても、0度以下になる事に対する説明には全くなり得ないので、さらに状態変化・化学平衡的な側面から、その本に書いてある内容を基にして、自分なりに解釈してできるだけ詳しく説明してみる。

冷蔵庫などで簡単に手に入る氷の上に、塩を乗せたイメージしやすい孤立系のモデル(つまり外界と熱のやり取りが無い)を考えてみる。
まず食塩が水に溶解する時の溶解熱は、
 NaClaq. = H2O + NaCl - QkJ (Q>0)
(Q=4.06kJ/mol)である。これも温度低下に寄与するが、固体の食塩が水に溶解する際にしか起こらないので、系全体へ寄与は微々たるものである。
実際閉鎖系内で支配的なのは次の、水と氷の状態変化の際の熱の吸収、放出である。
式にしてみると
 H2O(固) = H2O(液) - QkJ (Q>0)
(Q=6.0kJ/mol)
つまり、固体の水が液体になる際には熱を吸収し、逆に液体から固体になる時には熱を放出するわけだ。熱が周りに放出されれば、孤立系モデルにおいては熱が外に逃げないから、孤立系全体は温まり、熱が周りから吸収されれば孤立系全体は冷える。
更に、氷と塩の境界面に注目してみる。まず、氷の表面は、0度では水と氷の平衡状態(混ざった状態)となっている。氷の結晶構造はスカスカ(密度は水のほうが氷よりも大きい。以下ホームページを見ればそのスカスカさが分かる。氷の結晶構造http://www.chem.nagoya-u.ac.jp/~og/10Research/30Freezing/GendaiKagaku2002/)で、そのスカスカな表面上の結晶構造の中を、結晶化していない"水"状態の水分子は通過できる。しかし塩NaClのNa+イオンCl-イオンは,表面の境界面で"水和"されイオン化しても,内部に浸透することは結晶内部のスペースが十分でないため,結晶内部方向へほとんど通過出来ない。つまり、塩と氷の接触面においては氷の表面自体が簡易半透膜的なもの(完全なものではない)となっているのだ。
まず初めに、系内0℃において氷表面では、上式のような氷⇔水の平衡が生じているから、食塩を氷にまぶした状態の氷表面が一部溶け、食塩水となる。この際、食塩の水への溶解熱による吸熱反応が起こり、孤立系内の温度は少し下がるが、これは一時的なものである。食塩水は凝固点降下によって、濃いもの(飽和食塩水)は-21.3℃まで凍らない。
0℃で表面に食塩水が生じると、外側から、濃い食塩水層→表面氷結晶層(きわめて薄い簡易的半透膜)→奥の氷結晶(&過冷却の水)層という状態になっている。ここでの表面氷結晶層(簡易的半透膜)と奥の氷結晶(過冷却の水)層の境界は勿論はっきりしないし、表面氷結晶層は極めて薄いものと考えられる。
ここでこのモデルを簡単にして、半透膜で仕切られた濃い食塩水と水のモデルを考えてみる。水は濃度差を解消する方向に半透膜を介してどんどん移動する(食塩水を薄める方向に移動する)が、その"力"(つまり浸透圧)はとても強い。
表面氷結晶層(簡易半透膜)を介して、水は濃い食塩水層にどんどん移動する。
同時に表面氷結晶層(簡易半透膜)のすぐ下で、氷から(0℃以下では過冷却状態下の)水への状態変化と、それに伴う熱吸収(冷却)が生じるわけだが、その状態変化の過程は先ほどの強い浸透圧の"力"によって促される
もう一度まとめ直すと、浸透圧の"力"によって、上式の状態変化の平衡が右方向へ移動してていることにほかならない。右方向への平衡移動、つまり「氷→(過冷却の)水になる状態変化過程」で熱吸収が起こり*2、周りの熱を奪うので孤立系全体は冷える、つまり冷却効果が生じることとなる。
このまま系全体がどんどん冷えてゆくと、「系内全分子のエントロピーを増大させる力に起因する、(過冷却の)水→氷になる熱放出の"力"(つまり式左方向への力)」と、「水分子が食塩水の方に擬似的半透膜を通して移動しようとする浸透圧の力に起因する、氷→(過冷却の)水になる熱冷却の"力"(つまり式右方向への力)」が最終的につりあって(上式の平衡状態)温度低下が止まる。その時に閉鎖系の理想的条件下(食塩水が飽和食塩水の時=浸透圧の"力"が最大)で-21.3℃が実現されるわけだ。
蛇足ながら、脱水吸湿作用のある濃硫酸と氷では-37℃まで理論的には下がるそうで、これは濃硫酸の水和熱(発熱)を上で説明したのと同様に氷→水の融解熱が打ち消して上回っているからである。

さらに、ドライアイスエタノールを加えると理論上-79℃になる(上記の寒剤とは原理が違う?)のだが、これは小学生の時に家で実験してみたが確認するすべが無かった。花はガラスのように砕けたが…。この原理についてはまだ分からないので保留。
霧箱も作ってみようと考えたが、それを考え付いたのは高校になってからで、暇が無く挫折。

放射線と聞くと目に見えない危険なものという印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、現在放射線は医療や発電のためのエネルギー源などに有効利用されており私達の生活において非常に重要な役割を果たしています。実は日常生活の中で私達はラドンなどの放射性物質を含んだ空気を呼吸し、また放射線のシャワーの中で生活しているのです。これらの日常生活に存在する放射線を「自然放射線」と呼びます。

放射線は高速に飛んでいる目に見えない非常に小さな微粒子のため、観察することは非常に難しいと思われるかもしれません。しかし、霧箱という装置を用いれば自然放射線の存在を簡単に確認することができます(α線とか)。

霧箱は基本的にエタノールを入れたガラス容器とエタノールを閉じ込める為のガラス板から構成されており、ガラス容器の下部をドライアイスで冷却し、容器内のエタノールガスに温度差を生じさせることでエタノールの過飽和層をつくります。そして、エタノールの過飽和層を放射線が透過すると、飛行機雲のような放射線の飛跡が現れます。

ガラス容器はダンボールで、ガラス盤はお料理パッドに黒い紙を敷いたもので代用できる。
どうして軌跡が現れるかというと、過飽和層がミソなのである。
高校化学で水の過冷却という言葉を聞いた人も多いかもしれない。実は、あの状態はとても不安定な状態で、少しの振動や核となりえるものの存在(つまり均一性を乱すもの)によって容易に、そして一気に結晶化、つまり氷になってしまうのである。
それと同様にエタノール気体の過飽和層をα線などの自然放射線が通ると、過飽和層の均一性が乱される(通過した周囲の空気中の分子がイオン化して核となる)ので、その通過した道筋に沿ってエタノールが液体、あたかも雲のような微小な液滴になり、結果としてα線の飛んだ道筋が間接的に分かる訳だ。

*1:アイスキャンデーは市販のものを見れば分かるが-18℃位が実現できれば作ることは容易である。

*2:通常は、逆の左方向に平衡が移動している:水→氷方向の熱放出の方向