中学生の時の作文発掘

WindowsXP内のパソコンのデータを整理していたら,中学生の時の作文が出てきた。
それまで紙で作文していたものを,ワープロでつくりはじめた最初の文章なのだけど,やはり紙で書いた文章ほどの深みはないのかもしれない。真っ向ストレートに投げ込んでくる文章。
今の自分自身の目から見ると,14歳の目から見て書いた文章だから,どうしても甘い部分がある気がする。
けれど,読み返してみると自分自身としては今も捨てきれない,透徹した視点や構成があるのではないかと思う。

  『いいなあ。』
                2年×組 ○○ ○○
 皆さんも記憶に新しいと思うが、ケイタイの番号が、11ケタになった。僕は父に頼まれ、近くのコンビニまでケイタイの変換をしに行った。ところで、我が家には、毛色が白と黒と茶のランディという犬がおり、そいつが散歩を欲していたので、一緒に行くことにした。
 無事に変換を終え、寒いのでさっさと帰ろうとし、つないでいた犬の紐をほどいていると、革ジャンの男に呼びとめられた。僕は、何もからまれるようなことはしていない。ここは無視して帰ったほうが無難だろう。と思い、その場を立ち去ろうとした。
 しかし、その革ジャンを着た男は、なおも近づいてくる。僕は、因縁でも付けられて、面倒なことになるかもしれない。と考え、一瞬身構えた。
 ところが、その男の用があるのは、僕ではなく、犬のようらしいのだ。
 正直ホッとした。
 男はいやになれなれしい態度をとる。犬も大分警戒していた。そしてついに、男はこちらの警戒にも気付かず、僕に話しかけてきた。
「この犬、名前なに?」
 はっきり言って、この質問には拍子抜けした。たしかに、一番基本的な質問ではあるが、男の外見と、どことなくのんびりとしたその声とのギャップが激しくて。僕は、
「この犬はランディというんですけど。」
と答えた。するとその男は、人目もはばからず、おもむろにしゃがんで、外見とは余りにミスマッチな声で、
「ランディ、いい子だね。」
と、なで始めたのだった。男の表情は、先程より心なしか緩んでいた。そして、ポツリポツリと語り始めたのだった。
「オレの犬はな、去年、死んだんだ。こんな感じの犬でな、ちょうどこの季節だったんだよ。オレの里は九州の長崎なんだがな。去年の暮れに帰ったんだが。オレの犬は腹に子供がいたんだ。ところが、体の調子が悪くなって、死んだんだ。オレが帰って、調子悪そうだったから気をつけていたんだがな、次の日にはもう死んでいたんだ。」
 頭が混乱していて、上手く話せないようだった。しかも、男は僕と話している間、しきりに、『いいなあ。』と言うのだ。まるで溜め息をつくように。


 話が一段落すると、彼は、
「よくブラシかけてるな。ここの耳のところは、毛玉ができやすいから、気をつけなよ。」
 と言って、また犬をなで始めた。そしてまた、ポツリと言った。
「今年は、実家に帰る気がしなくてなあ……。」
 彼が連発する、『いいなあ。』の意味が、少しくみ取れた気がした。


――その日は師走の最後の日。――
 彼はその後どうしたのだろうか。

後日談をブログに書いていたので。ある犬の死 - 蒐羅の門
10年後に書いているものも,あんまり内容は進歩してないねw。