夏の夕立ち

夕立ほどわくわくするものはない。
さっきまでカンカンに照っていた空がにわかに曇り,顔に温かく湿った風が当たると,もう来るな,と思う。
雨がポテポテと地面に大粒のしるしをつけて,ザーっとくる瞬間が面白い。
建て直す前の実家は,広かったけれど戦争すぐに建てられた部分を含めて増築の繰り返しだったため,雨どいの関係で,激しい雨が降ると雨漏りする箇所が数ヵ所あった。なので,これくらい激しい夕立だとあそこが漏る,というのが雨音でおよそ予想がつくのだ。そこに先回りして,対処をしなければならなかった。
洗面器と壁の下のすきまから出てくるのと,両方に対応がいる。洗面器はあそこ,雑巾はあそことあそこ。
犬を飼っていた土間にも雨が漏るし,犬は雷が苦手なので人を呼んでぶるぶる震えているし,それにも並行して対策を講じる必要がある。
夕立が来ると,勉強もやめて,それらの対処をするのが,大学に入るまで,家にいるときの役目だった。
大体夏の夕方は,勉強なんてしたくない時間帯。
その時間を狙ってやってくる夕立に期待してしまう気持ちが,いまだに抜けないのだ。
実家も建て替わり,雨漏りはないし,一人暮らしをはじめて屋根の雨音を聞くこともなくなった。
街を歩いているときの夕立は,その昔の感覚を思い出させてくれる。