人間失格初版本からの研究

人間失格初版本が手元にあるので、久々に読んでみた。
大学2年のときに手に入れたものだ。
紙質は決して良くなく、あじろ綴じであるし、ページ番号が文章の右上、左上に振られている。ちょっと風変わりな本である。

改行の規則も、現在標準とされているものとは異なっている。

「それあ痛いさ。でも仕事の能率をあげるためには、いやでもこれをや
らなければいけないんだ。僕はこの頃、とても元氣だらう?さあ、仕事
だ、仕事。仕事。」
 とはしやぐのです。

のように、かぎかっこ内を一字下げにせずに、かぎかっこ外を1字下げている。今現在の規則だと、

「そりゃあ痛いさ。でも仕事の能率をあげるためには、いやでもこれ
 をやらなければいけないんだ。僕はこの頃、とても元気だろう?さ
 あ、仕事だ。仕事、仕事。」
とはしゃぐのです。

となるはず。新訂の文庫版でもこの改行は初版を尊重して、初版のままになっている。
手元にある明治時代の金色夜叉復刻盤だと、

「貴方でも可けないやうだったらは、巡査に然う言つて引渡してやり
 ませう。」
 直行は打笑へり。

というように、かぎかっこが普通の文章活字の上にすべて飛び出ている形になっている。
そうして一度作成されたものは、元々の体裁を尊重するから、ずっとその形式のまま文庫本や全集に所収される。
こうした規則の変遷というのは、活字の自由さや、写植をどうやるかの規則で決まってくるようだが、詳しい人はまだお目にかかったことはない。
こうした研究をまとめている人はどこかにいないものだろうか。
手元にある全集をひも解くと、ある程度、こうした表記でその作品が書かれた時代が推測できるようだ。また本屋で立ち読みしながら、もう少し研究してみます。