本紹介

遠き落日(上) (集英社文庫)

遠き落日(上) (集英社文庫)

遠き落日(下) (集英社文庫)

遠き落日(下) (集英社文庫)

今の新しい千円札の人に関して。松竹によって映画化もされて、小さい頃見に行った記憶もある。
野口英世の伝記というのはとかく野口を英雄視する傾向にある。僕が小さい頃読んだのもほとんどがその系譜だったと思う。実際生前に発行されたものに本人自ら目を通し、「こんな面白くない人生なんてたくさんだ」と言ったとか言わないとか。確かに、明治初期においてあの逆境生活の中から、あれほどの業績を挙げるのは、確かにすごいことである。当時ノーベル賞候補にも挙がったらしいが、東洋人であったせいもあって受賞とはならなかった。当時はノーベル賞でさえも、人種の壁があった*1ためと言われている。現在では、研究結果の誤りが多い(人的要因というよりは、物的要因(光学顕微鏡でウイルスが見えるはずがない))ため、研究の評価としては、わずかに蛇毒の研究成果が残るのみである。
この本はしっかりとその野口と言う人の暗部も描写している点で、そのバランスがいいと思う。この本を読んだ後、千円札をあらためて眺めてみて、なるほど、新札にしたのは景気回復祈願も込めているのか、などと妙な深読みをしてしまった。

*1:因みにノーベル賞初受賞となったアジア人は1913年インドのタゴール文学賞)である。