本紹介

昨日、木曜会のメンバーである寺田寅彦を紹介したので、今日は大御所

私の個人主義 (講談社学術文庫)

私の個人主義 (講談社学術文庫)

漱石の小説の評価と比べ、この講演録の評価が不当に低いのは本当に残念。漱石の偉大さはその思想性と人材育成能力であると、僕は考える。単純に小説の筆力で比べれば、彼の門人である芥川龍之介のほうが100倍勝っている。
つまり、漱石はその思想性を小説と言うオブラートで包んでいるが、そのオブラートがまずいために反ってその思想性が損なわれてしまっている*1。そういう意味では、講演録のほうが、より”素の”思想性を伝えるものであろうと考えられる。(文学者は恐らく{思想性→文学という芸術に昇華}というプロセスの評価の割合が高いのだろう。が、漱石を理解してみようという一般読者にとっては、特に時間の限られている人にとっては、彼の小説をたくさん読むことを僕は必ずしも勧めない。)
なぜか読後疲労を残す小説は、あまり進んで読み返そうという気にならないが、この本は読み返そうという気になる。

*1:とはいっても思想性自体が強いため、全く伝わらない、というわけではない。